ゴッドネス・ティア
「あたしはグッリューニ作曲のならなんでもいいよ」


「………では私は今ワルツを注文しよう」



鼻歌を歌いながら上機嫌に答えるソフィリスィアと、少し考えてからのリア。

レオナはわかった、と頷き、のこりのテリーに目を写す。


テリーはフッと笑みを漏らし、口を開いた。



「喜歌劇のような明るい曲がいいな。
だがレオナの歳でオペレッタのようなものは難しいだろうから、グッリューニの練習曲でいいぞ」



オペレッタとは喜歌劇のことで、お笑い要素やハッピーエンドが多いオペラのことだ。


とくにそのオペレッタブームの時代に生きていた今は亡き有名な作曲家グッリューニには長調など明るい曲が多く、とても聞きやすい親しみのある曲ばかりだ。


だが細かい音符が多くて速いため、一般人にはあまり弾かれない難曲ばかり。


練習曲でもなかなか難しく、上級者専用という形がほぼ出来ている。


そんなグッリューニなのだからテリーなりに気を使ったつもりなのだろう。

だが、その甘さはレオナの闘争心を駆り立ててしまった。


レオナはその子供らしいかわいらしい顔にニコリと笑顔を貼付けると、母の膝から下り、左の胸に右手当てたまま、まるで本当の紳士のようにゆっくりと上品にお辞儀をした。


そのあまりの優雅さに、客人三名は目を剥く。




「じゃあ…弾かせていただきます」



折った腰を起こし、子供にしては大人びた表情で微笑み、母を振り返る。



「……お母さんあれ弾けるよね?」


「あれ…?
あ、ああ、うん!!」



理解したように顔上げる母は、本当に嬉しそうに笑んでいた。


レオナはまたニコリと笑いかけると、再び母の膝の上に腰掛ける。


一つ息を吸い、吐く。









「曲名は……

グッリューニ作曲オペレッタ『メアリージュン』より、リゼッテのワルツ『私が微笑むと』」






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