ゴッドネス・ティア







「……………おやすみ」



美しいメロディが途切れた後、一つ息を吐いて……リンは小さく微笑みを浮かべた。


先程まで美しい響きを持っていた空気が一気に鎮静し、ただ涼やかな風の音と微かな虫の音が空気を伝って揺れた。






闇に塗られた空へ向けていた視線を、ふとベッド越しの扉へと移した。

ほんの少し開いた隙間から風が通り、小さく揺れている。


その隙間の奥を見遣って、……リンは目を細めた。

可笑しそうに口元に小さな笑みを作って。


















「……覗きだなんて、悪趣味だね。………………隠れてないで出ておいで」



柔らかい笑みを浮かべたまま、扉に向かって優しく囁くように呟いた。

扉の奥からは何一つ物音がしないが、……リンは確信しているらしく、暫くその扉から目を離すことはなかった。









もう暫くして、……観念したのか、ゆっくりと、錆びた金属音を響かせて扉が開いた。

こちらからは影が射して全く見えないが、…その見慣れたようなシルエットははっきりとわかった。



人物の全貌を確かめた後、「やっぱりー」と腹を押さえてクスクス笑うリン。
予感が的中したらしい。

真っ黒な人影が、ムッと顔をしかめたような気がした。


















「………こんな時間に何かな?………お風呂上がりのレオナ君!」


「………君付けはやめろ君付けは。気持ち悪い…」


「レオナちゃんっ!」


「テメェふざけてんのか」





「うん、ふざけてるー」と言ってケラケラ笑うリンを睨むのは、……頭をすっぽり黒いタオルで覆うように掛けられた…じじくさいレオナであった。

まだ乾き切っていない赤い髪からは、毛先から雫が垂れ、黒いシャツに小さなシミを作っている。



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