ゴッドネス・ティア
少し肌寒い夜空の下、大きな馬車は歩みを止めた。
森の向こう側が少し明るい。もうすぐ夜が明けるのだろう。
真っ黒な森のシルエットに光を浴びせる、ほんの少し顔出した太陽の光はとても美しかった。
「ご苦労さんよーお嬢さん達。大分お疲れのようだから俺はみんなを起こさずに行くぜ?後は任せた、ル・メイ嬢」
「……そのル・メイ嬢って言うの止めてよ。何か嫌」
ゆっくりと馬車から下りて来たのは、少しの間行動を共にしたクレスト。
それを馬車のベランダから見下ろしているのは、こんな真夜中に馬番になってしまった哀れなル・メイだ。
眠たそうに目を擦って、相変わらず飄々としたクレストを睨む。
他四人は疲れきって馬車内で爆睡を決め込んでいた。
それでいいのか国王騎士。
そんな国王騎士を気遣ってかそうでないのか、敵か味方かもわからない謎の男クレストはお得意の締まりのない笑みを浮かべた。
「いいじゃんル・メイ嬢。かわいいと思うぜ?」
「……お嬢、って嫌いなの。呼び捨てでいいから…」
「…………ふーん。面白くないなー」
ちぇーっ、と言いながらも顔には笑みを張り付けたままだ。
何を考えているかわからない、気持ち悪い。
出会ってから数時間経ったが、この男はふざけるばかりで肝心な事がわからない。
裏を読もうとすれば逆に読まれる。……扱いにくい。
さっさと何処かへ去ってほしい。
それが国王騎士の本音だった。
「じゃー俺は行こうかな……。…………………あっ」
始終笑顔のまま、くるりと後ろを向いたかと思えば、……またこちらを振り返った。
びくり、とル・メイの肩が震えた。
クレストの読めない瞳はル・メイを面白そうに眺めている。
ベランダの手摺りにだらし無く肘をついていたル・メイの腕を掴み、……ル・メイにしかわからない程の至近距離で嫌らしい笑みを浮かべた。
「―――…ル・メイ姫。姫さん、なんかどうですかねぇ?……なあ、ル・メイ姫さん……?」