ゴッドネス・ティア



―――…ル・メイ姫。

一度その言葉がル・メイの頭に響き渡り、……一瞬、目を見開いた。


その瞬間、…至近距離にいたクレストのマフラーを引っつかんだ。



一瞬だった。





空いたもう片手でクレストの首を掴み上げ、マフラーと共に締め上げた。

たった一瞬、だがその行為にはこれまでにない凄まじい殺意が籠められていた。


普通なら、声帯が潰れるか……いや、もしかしたら首自体が潰れてしまうかもしれない程の握力で締め上げられる。

いつもどこか不安げな傾向があったル・メイの瞳は、今や誰もが認める国王騎士の一人になっている。……いや、人を殺す目だ。


カッと見開いた目は血走り、理性など、ない。

ただ、感情に任せた行為。









………なんて愚かな。











ギリリ、と今度は両手で一番苦しいところを締めてきた。

喉仏が二つの親指に本気で潰されそうになったとき、………その手が一瞬緩んだ。







「止せ、ル・メイ。感情に任せ流された人殺しは罪になる」


力を籠めすぎたせいか、数本血管が浮かぶル・メイの腕を、不機嫌な声色の持ち主が掴んだ。

少しばかり緩んだが、それでも離そうとしないル・メイ。



「…………ル・メイ…っ!」



そろそろ本当に危ない。

クレストは一見平然とした顔をしているが、……その顔色は尋常じゃない。


しかしル・メイは腕を緩める気はないらしい。


クレストからル・メイを引きはがそうとするが、止めに来た本人…香月よりル・メイの方が体格が上のため、なかなか引きはがせない。

そう焦ったが、……すっ、と隣に現れた人物を見て、ホッとした。
彼女は、やる時はやってくれるから。


「……ル・メイ」


「―――……ッ!!」
















パーン、と気持ちの良い音がまだ闇に包まれている辺りに響いた。


< 406 / 506 >

この作品をシェア

pagetop