ゴッドネス・ティア
一つ息をついて、ウィルは続けた。
「今のリリオ国王はまだお若くて、即位してまだ数年でありながら…なかなかの統率ぶりだとは思うけど、……今戦争が起こるのはリリオとしては痛いだろうなあ…」
戦後、直ぐに前国王が無くなったため、当時まだ十にも満たない子供だった現国王が即位した。
そのため、通常なら一人であるはずの側近を複数付け、国王の補佐をさせている。
未だ雨が振り付ける窓から視線を外し、床に落とした。
小さな溜息をつくと、柔らかい金髪が肩から流れ落ちる。
「レオナルド陛下…大変だろうなぁ……」
「陛下、国王国家女五大騎士よりご報告がございます」
日が傾いてきたせいか、少し薄暗い部屋。
壁にびっしりと敷き詰められた本棚。部屋の中央で静かに佇む大きなテーブル。その上には本や資料が数多く散乱し、中にはインクが飛び散った形跡もある。
インクがからからに渇いたペンを握る指は力など入っていなくて、もう片方の腕などはテーブルからずり落ちていた。
背もたれに寄り掛かり、おまけに頭まで乗っけて大口まで開けている始末。
……『陛下』と呼ばれた人物は、だらし無い格好で明らかに眠っていた。
「…あの…陛下、…ご報告が…」
報告をしに執務室に来たのだが、肝心の報告相手は執務中に爆睡をこいている。
起こしてもいいのかと焦るが、彼女の肩に誰かが手を置いた。
確認などしなくても誰だか解る。
「よしなさいクロエ。さっきまで起きていらっしゃったのだけど、やっぱり徹夜はまだ陛下には早かったみたいだわ」
「……エリザベート…」
報告書を片手に突っ立っている彼女…クロエ、より幾分か小柄のエリザベートが言った。
簡素だが全身鎧の完全防備のクロエ。対して女性らしいふんわりとした印象が持てる柔らかいスカートのエリザベート。
この相反する二人は、目の前で眠りこける陛下の助手をしていたのだが、肝心の陛下がこれなので、残りの仕事は彼女等がするしかないらしい。