ゴッドネス・ティア
結局、お店の女性とは無駄に長くお喋りをしただけで、少し品物も見たが、何も買わなかった。
お店自体が女物の小道具店のせいか、用がある品物はない。
一行はまた辺りを歩き始めていた。
「レオナがモテるっていうのはアタシもずっと思ってたよーん。ねーレオナぁ」
「ちょ、おま、ベタベタ触んなよ。頭の布が取れちまうだろーが」
「いいじゃーん。どーせ頭黒くなってんだし」
「念には念を、なんだよ」
ベタベタとレオナに欝陶しく纏わり付いてくるリン。
黒くなった髪を面白そうに弄りまわしていた。
おかげで丁寧に巻かれていたはずの布はだんだんと乱れ、解かれていっている。
魔女の村から出る時、「赤い髪だと目立つから」とサロナに言われ、渡されたのは何やら怪しい黒いカプセル。
飲んでみるとあら不思議。簡単に髪が黒くなってしまったというわけだ。
細かい事に、眉毛や睫毛、更に瞳の色まで、まるで自分は元からこう生まれたのではないかと錯覚するような完璧な仕上がりだった。
小さな頃から、何をしても染められなかった髪が黒くなっているのを見て、それはもう発狂するほど驚いたとか。
サロナ特製のカプセルなんだ。きっと何か変な魔術やら麻薬やらが入っているのには違いないだろうが、まあそこはレオナだ。気にしない。
ちなみに布を巻いているのは、サロナ曰く、いつカプセルが切れるかわからないからだ。
とりあえずいつ切れてもいいようにと、ダーク家からその辺にあった長くて白い布を頂戴してきた。
何故黒一色の家の中に、フードやらではなくこんなものがあったのかは知らないが、まあいいだろう。
「しっかしまあ…さすが商いの街だね。人が多いったらありゃしない。……これだけいれば大儲けなのにー」
何人かの人とぶつかりそうになりながら、リンは煩わしそうに眉を潜めた。
リンにはあらかじめ窃盗などをしないように伝えてある。
物凄く嫌そうな顔をされたが、こちらだって引き下がれない。
渋々だが、なんとか承諾してもらった。