ゴッドネス・ティア
吉倉の女
数分前まで、俺達は平和だった。
……本当に、数分前までは。
「あっら〜?こっちお酒足りてないでありんす〜!お兄さんほら、もっと飲んでくださいまし!」
「いんやぁ〜しっかし兄さんはべっぴんやねぇ。女の私より、断然お綺麗にございましょう」
「そこのあんたもなかなか綺麗なお顔ねぇ、若いお兄さん。……あら、青い顔してどうされたんでしょう。どこか具合でも悪うございましょうか?」
「貴女方は奥の部屋へどうぞ。殿方はもっとこちらに、さあさあさあさあ…」
(……………怖い、怖いよ女……)
先程、街を迷いに迷い、やっとのことで華蓮が生まれ育ったという『吉倉』という地区にたどり着いた。
だが、そこは想像を絶する場所だったのだ。
たどり着いた瞬間、真緑に塗りたくられた入場門の周りには……たくさんの女共。
その一人一人の容姿は当たり前に違うが、一つ共通することは、売り物を売っているような町娘や、友人と談笑をする若いかわいらしい娘達とは違い、……なんというか、派手だった。
その時点では、まだまだレオナ達は理解しきれていなかった。
スノーリアなんて滅多に見せない、隙ありありなポカーンな顔で立ち尽くしているし。
だが、次の瞬間、平和は崩れた。
「………ぎゃあああっ!!」
黄色い声、を通り越した叫び。
叫び?いや、歓声?そこのところはよくわからない。
とにかくとにかく、次から次に女共は湧いて出て来て、スノーリアに寄り付いた。というか飛び付いた。
相変わらず隙ありありだったスノーリアはその衝撃をまともにくらった。
あまりの女共の数に、傍にいたレオナも無茶苦茶に巻き込まれる。
「――…ぐはぁっ!!」
「お兄さんお兄さん!アチキを買っておくんなんし〜!」
「あたいだよあたい!!あたいの方が絶対早かったよ!!」
「いんやアタシ!!アタシだよ兄さんアタシ!!」