ゴッドネス・ティア
意地悪く笑みを浮かべる華蓮。

売られた喧嘩は買う精神。たとえ売ったわけでなくともそう感じれば華蓮は極度に敵意剥き出しになる。面倒臭い奴だ。

そうレオナが感じていると、背後から微かな鈴の音がした。



「華蓮、お客様になんて態度なの。いけませんよ」



柔らかな芳香と共に、艶のある上品な声。

振り返ると、豪勢な衣服に身を包んだ美しい女性が、煙管を片手に微笑んでいた。

レオナと目が合うと、切れ長の色っぽい目を細め、綺麗に笑って頭を下げる。

艶やかな黒髪に刺された金の簪にぶら下がる鈴が、微かに揺れて鳴った。



「わたくし、名を睡蓮と申します。この店の…取締役でございます。以後、御見知りおきを……」



顔を上げてまた笑みを浮かべた。

白い肌と黒い髪が印象的な、綺麗な人だな、と思った。

だが、その美女は次の瞬間、今度は華蓮に視線を移し、違う意味で目を細めた。

まるで睨んでいるかのような目。その口元に笑みはない。



「華蓮、なんですかその物言いは。お客様に失礼でしょう」


「お、オーナー……だって…」


「だってじゃありません。貴女は此処を出た二年の間、ずっとそのような言い訳を通していたのいうの?情けないわね」


「…………ごめんなさい」



威厳のある取締役、睡蓮の言葉に、華蓮は口ごもった。

だが直ぐに、素直に謝罪を述べる華蓮。


いつも乱暴な口調でル・メイと大喧嘩をする彼女を見てきたレオナ達にとって、華蓮のそんな姿は考えられない行為だ。



「…いいわ、許してあげる。次は気を付けることね。……では、お客様、何かご注文でもおありなら受けますが、何か?」



素直な華蓮に満足げに微笑んだ睡蓮は、再びレオナへ視線を戻した。


< 463 / 506 >

この作品をシェア

pagetop