ゴッドネス・ティア
「……ねぇー兄さん。兄さんってレオナに恋愛感情でも持ってんの?」

背後にいたリンが、スノーリアにふと尋ねた。なんという事を聞いてくるんだろうかこの女は。


「何おかしな事を考えているんだ貴様は。違うぞ、断じて」

「ふーん、そうなのかい。じゃあ兄さんとレオナって親戚?…あ、弟?」

「……違う。赤の他人だ」


呆れて息を吐きスノーリアが小さく首を振ると、一瞬彼女は目を見開いた。


「……にしては、可愛がってるみたいだね」


クスリ、と今度は笑みを浮かべて言った。


「前から思ってたんだけど、レオナに向ける顔が、あの華蓮ちゃんとかいうやつと違って、あんまりにも穏やかっつーか……優しいもんだからさ……つい兄さんはそっち系かと」

「………そんなわけないだろう」

「………だよねー、あはは」



リンの人を少し馬鹿にしたような特徴的な笑いで、その会話は終わった。



サロナとリンは、その奇妙な組み合わせで街をぶらついてくると言う。

アランはお姉様達にちやほやされ、飴やら綿菓子やらをたくさん貰っていた。

その間、スノーリアは一先ず早く、今日泊まらせてもらうという部屋へ通してもらった。

華蓮がしっかりと手配してくれたらしい。大きな部屋二つ、右が女部屋、左が男部屋、らしい。

左の部屋の襖を開け、少しばかり埃っぽい和室へと入る。

壁を背に、畳に腰を下ろし、そっと、目を閉じた。











―――……レオナに向ける顔が、あの華蓮ちゃんとかいうやつと違って、あんまりにも穏やかっつーか……優しいもんだからさ……














……無意識に、重ねているらしい。

自分はずっと、彼を彼個人として見てきたはずだ。
否、そうしようと、気張っていたのだ。




その証拠に、目を閉じて思い出すのは…彼ではなく彼女だ。

まだ私は忘れきれていないのか。


………あれから、十年も経つというのに。




…どうやら、私はどうしても忘れたくないらしい。

どうして重ねてしまうのだ。











―――…あの子とあの人を。



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