ゴッドネス・ティア
人が、多い。
とにかく多い。
道行く男には必ず一人は女が引っ付いている。
緑色を中心としたぞろりと立ち並ぶ店には、まるで観賞されるためのように、柵の向こうに美しい女達が座っていた。
その目は、虚ろ。
口元には笑みがあったりなかったりするが、まるで生気がない。
こちらを見るその瞳と、合わせることが出来なかった。
「………目を合わせるんじゃないよ」
「……」
「……吉倉の女は…身寄りを亡くし行く宛てのない奴らがほとんどでな、ここで客がとれなきゃ役立たずとして死んじまう。あいつらは客をとるためならなんでもするよ」
「……」
「客になる気がないなら無視を決め込め。狙われると厄介だ」
「…………おう」
華蓮は相変わらず厳しい口調で、レオナ達を窘めた。
その足の速度は未だに緩まず、二人は華蓮に引っ張られているという状態だ。
何処に行くのだろうか。
人々の合間を速足で通り抜けていく。
だが、突然。華蓮の足がピタリと止まった。
つられて二人も止まると、道の向こうからなにやら悲鳴と足跡と聞こえ出した。
「………な、なんだ…?」
「…悲鳴が聞こえますね…なんでしょう……」
レオナとヒサノは不安げに顔を見合わせる。
この地区のことは、よくわからない。
二人揃って華蓮を見た。
……だが、その華蓮の顔には、今まで見たことないような、不気味で冷酷で…真剣な笑みが浮かんでいた。
その瞬間感じた恐怖。
背中辺りから悪寒が走り、肩を震わせた。
「誰かー!捕まえてー!」
悲鳴の中から一つ飛び抜けて聞こえた甲高い女の声。
その方向から、道行く人々を跳ね退けて疾走するがたいと良い男の姿が現れた。
男は早くもこちらに向かって来て、華蓮を押し退けレオナの横を行こうとする。
男の腕の中には、金貨が大量に入っているであろう袋が握られていた。
「………お客さん、ちょっと待ちな」
押し退けたはずの華蓮の手が、ゆっくりと男の腕を掴みとった。