ゴッドネス・ティア
がっくん、と男は尻餅を着いた。

それはもう勢いよく。



「その袋はなんだい。お客さん」



尻餅を着いている男の腕を掴んだまま、華蓮はあの笑みを浮かべた。

男は少し怯んだが、直ぐに負けじと華蓮を睨む。



「この金は俺のもんだ!手を離せガキ!!」


「……へぇ、貴方の物ねー…」



ちらり、と男の持つ袋を見遣り、何に気付いたのか、呆れたように鼻で笑った。

辺りには野次馬がどんどんと集まっている。



「その袋の紋章……向こうの店の物じゃないか?ほら、店の名前書いてあるじゃねぇか。……なぁお客さん?」



にっこり。爽やかなようなどす黒いような曖昧な、しかしなかなか凄みのある声と笑みで、華蓮はその場の気温を氷点下にした気がする。

男は慌てて立ち去ろうとするが、華蓮の掴んだ腕が離れない。

無理矢理剥がそうとしても、なんと華蓮の力の方が勝っているのか、全くびくともしない。



「……くっ…!離せガキが…!」


「…………ガキガキうっせぇぞ糞じじい」



なかなか引き下がらない男に、イラッとした反応を見せた。さすが、それでこそ彼女だ。

男の前髪を引っつかみ、その顔を持ち上げた。

そして次の瞬間、彼女は男の顔に凄まじい膝蹴りをかましていた。

それは見ている観衆達も目を覆ってしまう程の痛々しさ。

華蓮と同行していたレオナとヒサノも反射で目を閉じた。


次、目を開ければ、足元に先程の男が鼻から血を垂れ流して伏せていた。

このまま放っておいても良いだろうか。

男がのされてしまったのを見届けた観衆は、拍手と共にバラバラと散って行った。



「………華蓮、大丈夫か…?」



やっと言葉を発したレオナ。なんだか今の華蓮には声をかけにくいが、頑張った。

彼女は一瞬きょとんとして、次はにんまりとした笑みを浮かべた。



「当ったりめぇだろ!こんな男、熊より全然弱いからな!平気平気!」


「…熊?」


「………あー、修業時代にちょっと熊と…、な?」



ヒサノが首を傾げたのを見て、華蓮が何か説明しているが、よくわからない。

とりあえず、熊はどうでもいいのだ。

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