ゴッドネス・ティア
ゆっくりと散歩。

きっと久しぶりにゆっくり出来るにちがいない。

そう思っていたのが甘かった。そういえば、ここは人口が有り得ない程多かったのだ。

人気の店前では、当たり前だが男だけがうきうきとした表情で大勢並んでいるし。ちょっとした休憩場所である飲み食い出来る店にもやっぱり男衆がうじゃうじゃと群がっていた。

当然大通りである現在立っているこの道も、半端のない人口密度。
人口渋滞だとでもいうべきか。



「…ヒサノ。こりゃ散歩なんてあまっちょろいこと出来ねぇぞ」

「そうですね…渋滞してますもんね」

「俺こんなに人が密集してるとこなんて初めて見た。しかも男だけ。ムサッ」

「確かに…ムサ、いえ…熱苦しいですね」



ぎゅうぎゅうと右から左からとおしくらまんじゅう状態だ。

何故こんなに人がいるんだ。みんな暇なのか。日が傾いてから人が更に増えている気がする。

なんとか人一人通れるような人と人の間をぬって先へ進む。

レオナ自身、このような騒がしい場所はあまり好きではない。寧ろ苦手だ。都会で派手に生きるより田舎でのんびり生きていたい派なのだ。

こんな人込みじゃ話も出来ないし、とにかく少し人が少ない小道にでも出ようか。とヒサノに声をかけようと振り向いた。



「………あれ…?」



だが、そこにいるはずの彼女がいない。

後ろから着いて来ていると思っていたのに。まるで姿が見えない。
もしや迷子か。あの年で。



「…いや、俺も迷子か。畜生め…どこ行ったあいつ」



この人ごみの多さで離れてしまうのは非常にまずい。しかしヒサノがどこで離れてしまったのかわからない。この大通りにいることは確かだが。

よってレオナは一歩も動けない状態にあった。



「……まずい、まずいぞ。ヒサノはなんだかんだいって顔はかわいいからな…男がうじゃうじゃいるこんなとこで一人にしとくのは非常にまずい…」



だんだんと自分の血の気が引いていくのがわかる。
一刻も早く彼女を見つけ出さなければいけない。
そう思って足が一歩前へ出た。その瞬間。



「……うぇ〜…ひっぐ、ぅ〜…」



……隣から子供の鳴咽が聞こえてしまった。



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