ゴッドネス・ティア
彼女の重い三又の槍が、こちらに牙を向ける。

重いそれを抱えて素早く迫ってくるものを、香月は受け止めるしかなかった。

亀裂のある香月の槍と、彼女の丈夫な鉄の槍。

どちらが優勢かなんて、わかっている。だが、避けるわけにはいかなかった。



次の衝撃は、先程のものよりも数段重かった。



目と鼻の先にある、人間の女の顔。恐ろしい程孤を描く口元が見えた。



「ふーん…さすがリーダーさんね。武器が壊れるのも恐れないで受け止めるなんてさ。恐いもの知らずかー」


「…くっ…貴様…!」


「ねー香月さーん。あたしのこと覚えてるでしょ?ナミだよ。ナミ・ダコス。ほら、あたしのこの顔見て。ねぇねぇ…」


「…っ知らん!なんなんだお前は!」


「………本当に知らない?」


「当たり前だ!……くそ…っ…!!」



香月の必死の抵抗により、なんとか第二波は回避できた。

刃を弾かれたナミという女は、数歩だけ後退した。その息は一つも乱れていない。



「………ふーん、あっそ。じゃあ思い出して貰おうか」


「………?」



ナミから数歩後退した香月は、俯く彼女の呟きを耳にした。淡い桃色の長髪が肩を流れ落ち、その弾みで耳たぶからぶら下がるリングピアスが揺れた。

彼女はゆっくりと顔をあげた。その顔に先程のような笑みはない。



「あたしはね、あんたに、藍 香月に、復讐しにきたの」



彼女の唇がまた開いた。
だが、その言葉は、疑問の浮かぶ言葉だった。



「………身に覚えがないのだが」



彼女は自分に、藍香月に復讐をしに来たという。いったい何故。解らないことだらけだ。

だが、そう答えたことにより、彼女の表情は一変した。



「……身に、覚えが、ない、だと…?」



その声は震えていた。彼女の拳も体も震えていた。
その顔は恐ろしく歪んでいた。影がさしたような、そして悪霊でも乗り移ったかのような、歪んだ顔だった。



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