ゴッドネス・ティア
彼女は息を切らしていた。
地面の上に仰向けになる香月の上で、勝ち誇った笑みを浮かべていた。



「あ、はは…!なんだその顔は!思い出したか藍香月!」


「………」



顔中が、痛い。
何度殴られたかなんか数えていない。ただ、口内は皮膚の亀裂が舌で触れてわかる程酷いし、唇も切れている。もしかしたら鼻も折れているかもしれない。
だがそんな状態でも香月は冷静だった。自分の腹の上で腹を抱えて笑う彼女を、冷めた目で見ていた。
力のあまり入らない指を少しだけ動かした。ざらざらとする細かい砂を掌で遊ばせてみて、それを彼女へ振り掛けた。

案の定、隙を見せていた彼女は悲鳴を上げて香月の腹から飛びのいた。



「……く…っ…目が…!…卑怯者め!!」


「戦闘中に隙を見せるなど言語道断。今のは私が卑怯だったのではない。お前の注意力が散漫していただけた」



今度は地に伏せる彼女を見下ろす立場となった。
目に入った砂を擦ってとろうとしているが、それがなかなかとれないのにイライラしているのがわかる。

立場逆転、香月は地面に伏す彼女の背中を踏み付けた。



「私をさっさと殺せばよかったものを。悪いがここで死んでもらう」



槍の刃を彼女の首筋に宛てがった。
こちらを見上げる彼女は、それはもう悔しそうで、そこには憎悪というものが見えた気がした。

綺麗な髪が、地面の砂と絡んで汚れている。

この瞬間、前にもどこかで見た気がする。どこだったかな。ああそうだ、まただ。あの戦争。
終戦間近に参戦して、ヒュネットへ行った。剣と銃、たまに魔術や爆弾が飛び交って、そんな恐ろしい戦場に出たんだ。
村はもうすでに焼け野原で、戦火で轟々と燃えていて。きっと一般人は皆逃げたのだろうと、その村の兵士を皆殺しにした後思ったんだ。

だが…
















―――……お願い…殺さないで…!!




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