ゴッドネス・ティア
少女は、地面に額をこすりつけて言ったんだ。
敵であるエルフに頭を下げて、屈辱を噛み締めて、言ったんだ。
少女の隣には、疲れきった顔をした女性の姿があった。その腕にはまだ産後間もない赤ん坊が抱かれていた。まだ汚れを知らぬ瞳が、涙で濡れていた。その泣き声は、轟々と燃えている業火よりも耳に染み付いた。
―――お願いします…!お姉ちゃんは…お姉ちゃんとこの子だけは生かしてあげて…!赤ちゃんが…まだ産まれたばっかりの赤ちゃんなのよ…!
―――私を殺すなら殺してください!でもお姉ちゃんだけは…どうか…!
―――両親もこの子の父である姉の夫も…この戦火で亡くなったのです!でも赤ちゃんにはなんの罪もないの!
―――お願い…ねぇ…助けてよ…!!
そう叫んで、敵である私に頭を下げて、懇願した少女。
戦火のせいで焦げてしまった桃色の髪が、砂と絡んで汚れていた。
哀れだった。可哀相だったんだ。
一般人は殺さなくてもいいと、聞かされていた。
だが、傍にいた上司は言ったんだ。
―――……殺れ。
本当は、助けてあげたかった。
生まれたての新しい命を刺すなんて、したくなかった。その母親の心臓をえぐりたくなんてなかった。全てを捨てて、命請いをしてくる少女を、切りたくなんて、なかったんだ。
ただ、怖かった。
狂ってた。
可笑しかった。
愚かだった。
なんて自分は……
「……人殺し」
カラン、と。
愛用の槍が渇いた音をたてて地に倒れた。
「人殺しぃ…!父さんを…母さんを…義兄さんを…姉ちゃんを…!返せ…!皆を返せ人殺し!姪まで…まだ名前も決めてなかった赤ちゃんまで殺しやがって…!人殺し!悪魔!化け物め!」
かつての少女は苦しげに顔を歪めていた。そうか、あの時の少女が…彼女。
すでに砂はとれているらしい。その目はまっすぐ香月を見上げていた。
睨み上げていた。
敵であるエルフに頭を下げて、屈辱を噛み締めて、言ったんだ。
少女の隣には、疲れきった顔をした女性の姿があった。その腕にはまだ産後間もない赤ん坊が抱かれていた。まだ汚れを知らぬ瞳が、涙で濡れていた。その泣き声は、轟々と燃えている業火よりも耳に染み付いた。
―――お願いします…!お姉ちゃんは…お姉ちゃんとこの子だけは生かしてあげて…!赤ちゃんが…まだ産まれたばっかりの赤ちゃんなのよ…!
―――私を殺すなら殺してください!でもお姉ちゃんだけは…どうか…!
―――両親もこの子の父である姉の夫も…この戦火で亡くなったのです!でも赤ちゃんにはなんの罪もないの!
―――お願い…ねぇ…助けてよ…!!
そう叫んで、敵である私に頭を下げて、懇願した少女。
戦火のせいで焦げてしまった桃色の髪が、砂と絡んで汚れていた。
哀れだった。可哀相だったんだ。
一般人は殺さなくてもいいと、聞かされていた。
だが、傍にいた上司は言ったんだ。
―――……殺れ。
本当は、助けてあげたかった。
生まれたての新しい命を刺すなんて、したくなかった。その母親の心臓をえぐりたくなんてなかった。全てを捨てて、命請いをしてくる少女を、切りたくなんて、なかったんだ。
ただ、怖かった。
狂ってた。
可笑しかった。
愚かだった。
なんて自分は……
「……人殺し」
カラン、と。
愛用の槍が渇いた音をたてて地に倒れた。
「人殺しぃ…!父さんを…母さんを…義兄さんを…姉ちゃんを…!返せ…!皆を返せ人殺し!姪まで…まだ名前も決めてなかった赤ちゃんまで殺しやがって…!人殺し!悪魔!化け物め!」
かつての少女は苦しげに顔を歪めていた。そうか、あの時の少女が…彼女。
すでに砂はとれているらしい。その目はまっすぐ香月を見上げていた。
睨み上げていた。