ゴッドネス・ティア
走っていた。
何本、小路を走り抜けただろう。
とにかく、ヒサノの腕を引っ張りながら、微かに匂う煙を感じながら走っていた。
「も……無理……です…っ…!」
走り続けていたら、遂にヒサノが悲鳴を上げた。
やっぱり、と思いゆっくりと速度を緩める。
完全に止まると、ヒサノは苦しげに呼吸を繰り返していた。
「レ、オナ…ちょっとくら、い…手加減…を…っ…ゲホ…」
「止まってる場合じゃねぇんだよ。…ちょいとこれはマジでやばい状況だからな」
「この街が…襲われ、てるって…ほ、本当…なんです、か…?」
「敵襲…って…多分そうゆうことだろ。何に襲われてんのかわかんねぇけど、この緊迫した雰囲気でやべえってのはわかるよ」
「……じゃあ…早く逃げないと…ですね…。…………………………なんでレオナは息切れてないんですか」
「俺、走るの得意」
「…………ほぅ」
そうなんですかーすごいですねーあははー。と笑って見せるヒサノは、とても青ざめていた。口元と思いなしか引きつっている。
「………大丈夫かよ」
「…はい?」
「緊張してんだろ。顔、青い」
「………そう言うレオナも顔白いですよ」
「バカ、俺は元々美白なんだよ」
「あはは、それは日焼け止め要らずですねー」
「おう、スゲーだろ」
「凄い凄いー」
あははははー。と笑う二人。しかしその笑い声はどこか渇いている。
うん、笑えない。
今は気分を変えようとする冗談も、全く笑いの要素にはならなかった。