ゴッドネス・ティア
このままずっと走って走って、走り続けて、さっさとこの街を出てしまいたい。

華蓮は、ずっとこんな危険な街に住んでいたのか。あんな、女の子が、男装までして。

自分が、どれだけ恵まれていたかわかる。パオーレではこんなことなかった。

時間はゆっくり過ぎていき、老夫婦は小さな畑で協力しあって生計をたて、子供達は広場で仲良く遊び回り、いたずらをして、叱られて。

同じ世界なのに、こんなにも違う。

表があれば裏がある。そう、クレストが言っていた。

まさにこの街は、いやこの地区はそれだ。

パオーレが表だとすれば、この街は裏だ。

暗くて怖い、暖かさがない。

とにかく、こんなところから一秒でも早く逃げ出しかった。

奴らからもう大分距離を離したから、もうそろそろ止まってもいいころだが、走り続けた。









だが、現実そう甘くなかった。





「見ーつっけたっ!」



小路を出る直前、大きな陰が目の前に立ちはだかった。

急な出来事に、レオナは躓きそうになりながら足を止めた。

そこには、先程ぶん殴った兄ちゃんAが、左頬に赤黒い痣をつくって立っていた。

その気持ち悪い笑みを見た瞬間、足元から頭のてっぺんまでビビッと寒気立った。



「よぅ坊主……さっきはよくも俺の大事な顔に傷をつけてくれたなぁ…」



何人もの兄ちゃん達を従えた兄ちゃんAが、じりじりとこちらによってきた。

危険を感じて元来た道へ逃げ出そうと引き返そうとしたが、背後にも数人の兄ちゃん達がいた。

やばい、挟まれた。

気付いた時にはもう遅く、背後と目の前を兄ちゃん達に囲まれた。

しまった、こういう時のための剣を、邪魔になるからとスノーリアに預けたまま忘れてしまった。

つまり、今は何も身を守るものが、ない。

今度こそ、絶体絶命大ピンチだ。


< 503 / 506 >

この作品をシェア

pagetop