神様の願いごと
◆神様に祟られた日
「七槻、七槻千世」
今年の梅雨は妙に働き者だなと思う。
ついこの間テレビで見慣れたお天気キャスターが「この地方も梅雨入りしました」と言ってから、ほとんど毎日空はどんより曇り空だ。
曇り空と言うか、梅雨空。そっちの言い方のほうが、心持ち爽やかな気が、しないでもない。
「おい七槻!」
ビクッと肩が揺れた。
慌てて窓から目を逸らすと、ようやくまわりの音と景色がまともに頭に入ってくる。
もう半分くらい人がいない教室、残っている人のほとんどは、こっちを見て笑っている。
あれ、いつのまにホームルーム終わったんだか。
そしてどうして先生は、そんな形相で睨んでるんだか。
「先生今、わたし呼びました?」
「……たぶんな」
「なんですか?」
「なんですかじゃないっつうの。まったく……。七槻、お前、進路調査票、出してから帰れよ」
言われて「う」と声を詰まらせた。カバンの中にぐしゃぐしゃに丸めてあった、いつかの提出物を思い出す。
「すみません……忘れてました」
「あと出してないの、お前だけなんだからな」
「はあい。あとで出しまーす」
「絶対だぞ。職員室まで持ってくるように」
「はあい。了解でーす」
「持ってこなかったら家庭訪問するからな。じゃあまたあとで」
嫌なセリフを残して教室を出ていく先生。その背中を見送ってから、体中の空気と元気を吐き出す。
そうして、まだ笑ってくれているクラスメイトにへたくそに笑い返して、わたしはあんまり物の入っていないカバンを開けた。
発掘したのは、隅のほうでしわになっていたプリント。進路希望調査票だ。
……本当は、忘れていたわけじゃないけれど。単純に、ただ、書けることがなかっただけ。