i f~小さな街の物語~
第1章「始まり」
第1話「入学」
桜満開の4月。
希望に満ちた
たくさんの笑顔がそこにはあった。
「只今より、入学式を始めます。」
少しピリピリした空気が漂う
体育館に響き渡る
先生の声に背筋が伸びた。
俺の名前は 木村 翔(かける)。
今年中学校に入学した
至って普通の13歳。
今日はその入学式。
とはいっても
同じ小学校の連中は
ほぼ全員この中学校に
入学したこともあって
周りを見渡すと知っている顔も少なくない。
「よっ!翔!
お前何組?俺2組だったよ!」
軽いノリで
声を掛けてきたのは
親友の山岸卓也。
イケメンでスポーツ万能。
おまけに勉強までできる。
そして何より、いい奴。
モテる男の条件が
全て揃っているこいつが
何故、何の取り柄もない
俺なんかと一緒にいるんだろうって思ってしまうことも時々。
ただ、俺にとって卓也は
一番の親友であり、憧れの男 でもある。
それだけは
間違いのない事実だった。
「あ~確か3組だったかな?隣だね。」
俺はそっけなく答えた。
「相変わらず面倒くさそうに話すね~翔は!
もうちょっとさ、同じクラスがよかったな!
とかないのかよ~!
まあ、また3年間仲良くしような!」
屈託のない笑顔で俺の肩を叩き、卓也は足早に去っていった。
その姿を見て、すでに何人かの女子生徒が目を輝かせている。
(、、、さすがだな。あいつ。)
黙っていても女性には困らないであろう
卓也を見てちょっと嫉妬してしまう自分がそこにはいた。
でも、俺は知っている。
卓也は女の子が大の苦手だ。
声をかけられても、素っ気なく返事をするだけ。
目を見ることすらままならない。
そう。実は、奴はとてつもなくシャイな男。
それでも奴はモテる。
本当、世の中って不平等だって思う。
(はー、、、
俺に彼女ができる日なんてくるのかな。
、、、、、、まあいっか。
面倒くさいけど教室行かなきゃな。)
余計なことをいろいろと考えながら
俺は教室に向かった。
俺たちの学校は少し独特な造りで
1~4組は古い校舎の3階
5~8組は新しい校舎の3階に教室がある。
途中、隣の2組を通り過ぎると
すでに何人かの生徒に囲まれて
楽しそうに話をしている卓也がいた。
卓也は当たり前のように輪の中心にいた。
(やっぱりあいつはすげーなー。)
親友の立場からすると
少しだけ寂しい気持ちにもなったけど
なるべく気にしないようにして
隣の教室にたどり着いた。
ガラガラガラ。。。
教室に入ると、15人程の生徒がいる。
全員が俺のことをチラっとみた。
俺はそれを無視するようにして
あらかじめ指定されている席に静かに腰を下ろした。
みんな知らない顔ばかり。
どうやら、この3組に
俺の出身小学校の生徒は少ないみたい。
俺は一呼吸おいて、教室内を見渡した。
みんな、仲間外れは嫌なんだろう。
同じ出身校同士であろう生徒達が
ぎこちない雰囲気でグループを作っている。
これなんだよ、これ。
こういったことが俺には出来ない。
というか面倒くさい。
別に否定する気はないけど
俺はもっと自然体で友達を作っていきたい。
馴れ合いではない、本当の友達を。
と、いつもそんな風に強がる自分。
強がることで
自分は周りよりも大人だと言い聞かせる。
こんな時、卓也の顔が頭に浮かぶ。
俺がもし卓也のような性格の持ち主だったら
きっとこんなつっぱり方はしないだろうなって。
そう思うと
またあいつに嫉妬している自分がいた。
そんなことを考えているうちに
徐々に生徒が集まりだし
10分が経つ頃には席が全て埋まっていた。
、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、
静まり返る教室。
と、そこに絶妙なタイミングで
担任らしき人物が教室に入ってきた。
30代前半で、イケメンの先生。
「皆さん入学おめでとうございます!
今日から1年3組の担任をします、片桐です。よろしく!」
片桐先生は見た目以上に
とても元気のよい体育会系の先生だった。
「これから1年間、みんなと一緒に頑張っていくからね!
みんな、中学校生活を思い切り楽もう!」
片桐先生の想像以上のパワーに
みんな圧倒されていたけれど
中学生向けのジョークを交えながら
場の雰囲気を和ませる先生のペースに
気付けば全員が巻き込まれていて
さっきまでの静まり返った雰囲気は
わずか5分で消え去った。
(ん~微妙。
いい人そうだけど面倒くさそうな先生だな。)
ここでも俺は
冷めた目で先生と周りの生徒を見ていて
無理やり背伸びを続けていたんだ。
第1話
「入学」 ~完~
第2話
「山口裕太」へ続く