i f~小さな街の物語~

第2話「山口裕太」



片桐先生の話が終わりに近付き始めた頃

俺は嫌な予感がしていた。




俺の最も苦手とするキーワードが

先生から飛び出してきそうだったから。



「はい、先生からの話はこれくらいにして、、、最後に自己紹介しよっか!
一人ずつ前に出てきて、名前と出身校と、、、そうだな、趣味くらいは言っていこうか!」




(、、、やっぱり。)





予感は的中した。



自己紹介は絶対に嫌だと思っていた矢先の
片桐先生の一言だった。



(あ~、マジで面倒くさい。は~、、、)



俺はこの場から消え去りたい気分だった。






とはいっても
もちろん「嫌です」なんて言えるはずもなく

最悪の時間は始まった。






先生が
和やかな雰囲気を作ってくれたこともあってか

みんなそれぞれ
笑顔で自己紹介を済ませていく。





「次は、、、木村くん。
木村翔くん、お願いしま~す。」



先生に名前を呼ばれ
俺は少し顔を赤くしながら少し早口で始めた。

「U小学校出身、木村翔。
趣味は特にありません。」







特に何の反応もなく
拍手だけが教室内に響いた。



きっとこんな時


みんなから
どんな目で見られていただろうとか



もっと笑って話せばよかったとか



自分だけが
いろいろ気にしてしまっているだけで



実際、周りは何とも思っていないことが
ほとんどだってことを



この時の俺は知らなかった。











その後も自己紹介は進んでいく。



やけにテンションが高い奴もいれば
超がつくほど真面目そうな奴もいる。


俺はそれをボーッと見つめていた。








そんな苦痛の
自己紹介タイムも残り一人。



「え~と、、
これで最後だね!山口裕太くん。」


名前を呼ばれ立ち上がったのは
ふてぶてしい顔をした男。


「D小学校出身、山口裕太。
趣味は何もないっす。」



言っている内容は、俺と変わらないけれど



その明らかに人を見下したような表情をした
彼の自己紹介は

和やかになっていた教室内に
ピリッとした空気を呼び戻すには
十分なインパクトだった。





そんな空気の中、当の本人は
何事もなかったかのように腰を下ろす。



(へ~、ちょっとカッコつけすぎだけど
面白い奴もいるじゃん。)



山口裕太という男に親近感を感じ
少しだけ嬉しい気持ちになった瞬間だった。






「今年の一年生はいろんな奴がいて面白いな~!!
まあ仲良くやっていこう!
じゃあ今日はこれで解散!」



彼が再び作った緊張感を
絶妙なタイミングで打ち消してしまう
片桐先生の凄さに少し関心しながら
俺は教室を出て行った。



第2話

「山口裕太」~完~

第3話

「新しい仲間たち」へ続く




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