i f~小さな街の物語~
第4話「家族」
帰宅すると、家には誰も居なかった。
俺の家は親父、母さん、3歳年上の姉貴、そして俺の4人家族。
至って普通の家族で、仲も悪くない。
母さんは専業主婦をしていて
いつでも優しく、俺や姉の味方をしてくれる。
親父は車のセールスをしていて、帰りは遅い。
特に口うるさくなく、基本的に母任せな人。
姉貴は高校1年生。
見た目はギャル。
遊んでばかりで、夜も遅い。ただ、面倒見はいい。
ちょうど腹が減った俺は
お菓子を食べながら時間を潰していた。
ふいに携帯のメール音が鳴る。
画面を開くと、相手は姉貴だった。
今日は晃の家泊まるから、お母さんに適当に言っといて。
今度なんかおごる!
(ちっ、、、またかよ。)
晃とは姉貴の彼氏。
かなりチャラいけど、優しい。
俺も何回か遊んでもらっている。
兄貴みたいで、結構好き。
俺を使うなっつーの。
わかった、なんかおごれよ。
俺は素っ気なく返事をした。
しばらくすると母さんが買い物から帰ってきた。
「ただいま~♪翔、お腹空いたでしょ?
ごめんね遅くなって!今からご飯作るね。」
「適当に食ってたから大丈夫だよ。」
「そっか♪今日は入学祝いで、すき焼きにするね!」
そう言って、母さんは嬉しそうに台所に向かっていく。
ここ最近は、親父の帰りが遅く
姉貴も家に帰ってこないことが多いこともあって
二人で食事することがほとんどで
本当は
家族4人で食卓を囲みたいと思っていただろうけど
そんな様子を一切見せることなく
いつもいつも明るく振舞っている母さんの姿は俺の誇りだった。
しばらくすると、美味しそうな匂いがしてきた。
「翔できたよっ♪食べよっか!」
「はいよ。」
食卓では、母さんが今日の学校での話をいろいろと聞いてきた。
心配なんだろう。
「どうだった?友達できた?」
母さんはいつも、俺の目を見て笑顔で語りかけてくれる。
「う~ん、まあそれなりにね。」
俺はいつも通りの素っ気ない返事。
「翔のことだから、どんな状況でもそう言うと思うけど♪
卓也くんもいるし心配はしてないけど。
たまには自分から人に声を掛けることも大事だからね♪」
「、、、うん。」
母さんの優しさは、たまに痛い時がある。
そんな俺の気持ちを察したのか
母さんがそれ以上のことを聞くことはなかった。
「あ、今日も姉貴は晃くんの家に泊まるってさ。」
「またぁ?わかったよ。私に直接言えばいいのにね~。」
「本当だよ。
とりあえず今日は疲れたから風呂入って寝るよ。ごちそうさま。」
「うん♪お疲れ様ね、おやすみ。」
こうして、長い1日がようやく終わった。
翌日
今日から本格的に中学校生活が始まる。
家を出る時、親父と顔を合わせた。
「おぅ、おはよ。頑張ってこいよ。」
「うん。行ってくるよ。」
親父は特に何も聞くことなく、いつも通り俺を見送った。
玄関を開けると、大和と卓也が待っていた。
「翔おはよ~!一緒に行こうぜ~。」
朝っぱらから、いつものテンションで卓也が出迎えてくれた。
「翔くん、おはよ。昨日はありがと!」
大和は少し眠そうな顔をしながら笑っていた。
そんな二人を見て俺は元気をもらった。
途中、太一と竜也も合流。
5人一緒に学校へ向かった。
さすがに、まだ慣れていないせいか
俺と卓也、大和たち3人という形に分かれてしまったけど
これから少しずつ
この組み合わせが変わっていけばいいなと思った。
学校に着くと、卓也たち4人は一緒に教室へ。
「翔!!寂しかったらいつでもこいよ~!」
卓也は別れ際にそう言って教室に入っていった。
俺の性格をよくわかってる卓也だから
気を利かせて言ってくれたんだと思う。
「いかねーよ!ばーか!」
卓也のさりげない優しさに感謝しながら
俺は笑顔で隣の教室に入った。
第4話
「家族」~完~
第5話
「本当の顔」へ続く