i f~小さな街の物語~
第7話「家庭事情」
「たっだいまー!!」
いつもよりも
大きな声が家中に響き渡る。
昨日とは
別人のような、ただいまの声に
母さんが
ビックリした様子で出迎えた。
「おかえり!どうしたの?!」
「ふふーん。
ほら、入れよ、裕太!」
「う、うん。お邪魔します。」
テンションの高い俺の後ろから
現れた裕太の姿を見て
母さんは
すぐに事情を察してくれた。
「、、そゆことか♪
はい、いらっしゃい♪」
満面の笑みの母さんに対して
ペコリと頭を下げ
履いていた靴を整え
裕太は改めて挨拶をした。
「初めまして。
山口裕太っていいます。
お邪魔します!」
「わぁ、誰かさんと違って
礼儀正しい子だね♪どーぞどーぞ。」
一通りの挨拶を済ませ
俺と裕太は2階に向かった。
「どーぞ、お入りなされ。」
「どーもどーも。」
部屋に入り
俺たち二人は話を始めた。
「翔さー。なんで今日俺のこと起こした?」
「え?なんでって、、、
うーん、、、、、、」
俺は真剣に考えていた。
その姿を裕太は
クスッと笑いながら見ている。
「、、寝てたから、、かな。」
考え抜いて出した結論はこれ。
「あはは!
なんだそれ!変な奴!」
「うるさいなぁ。
いいじゃん!そんな理由で!」
その後も俺は
素直に思っていることを話し
裕太もそれに
素直に答えてくれた。
コンコン。
「翔、お菓子持ってきたから
裕太君と一緒に食べてね♪」
母さんが
お菓子を持ってきてくれた。
「うん、サンキュー。」
「裕太君、こんな子だけど仲良くしてあげてね♪
あ!よかったら夕飯も食べていきなさい♪」
「あ、、はい。」
母さんは
裕太にそれだけ告げて
渡すものを渡すと
さっさと1階に下りていった。
そして会話は続く。
「なんかごめんな。うざい母親で。マジ親バカでさっ。」
「いや、優しいお母さんじゃん。」
「裕太んとこの家族はどんな感じなの?」
「俺んとこは親父と、兄貴が1人。
小さいときに両親が離婚して母親はいないんだ。
だから、ああいう優しいお母さんがいるなんてうらやましいよ。」
そう語る裕太の目は
寂しいと言っているようだった。
「マジ?
ごめん、変なこと聞いて、、」
「は~?気にすんなよ。
普通この歳じゃ両親いると思って当たり前だから。
マジ気にしないで。」
「うん、、、」
いけないことを
聞いてしまった罪悪感と
裕太が機嫌を悪くしてしまったんじゃないかという心配で
俺は胸が一杯だった。
「翔は兄弟とかいんの?」
そんな様子を見兼ねた
裕太が逆に声を掛けてくれた。
「うん。姉貴が1人ね。
バカだし遊んでばっかりだけど、悪い人じゃないよ。」
「ははは。
他人みたいな言い方だな。」
「裕太の兄貴はどんな人?」
「ん~俺とは真逆かな。
いつも周りに人が集まってて、輪の中心にいるみたいな感じ。俺に対しても優しいし。」
「いくつなの?」
「もう22歳。
親父が全然働かなくてさ。
兄貴が全部やってくれてるんだよ。マジ親父はクソだよ。」
裕太の顔が少し強張ったのを
俺は見逃さない。
せっかく家に来てくれたのに
暗い話題ばかりじゃ申し訳ない。
「そうなんだ。
なんかいろいろ苦労してるんだね、、、」
そう言って
この話題を終わらせた。
「まあね。
お前の家がうらやましいよ。
てゆーか、、ご飯マジで食べていっていいの?」
俺は満面の笑みで答える。
「当ったり前じゃん!
なんなら泊まっていけよ!」
「いやいや、泊まりはまずいっしょ。」
苦笑い気味に裕太が答えた。
「いいって!遠慮すんなよ!」
少しずつ
打ち解けることが出来たことと
もっとたくさん
話がしたいという気持ちから
俺は完全に舞い上がっていて
すぐにドアを開け
1階にいる母さんに大声で叫んだ。
「母さ~ん!
今日裕太が夕飯食べてくって!!」
その声を聞いた母さんが
下から顔だけをのぞかせ
嬉しそうな
俺の顔を見て笑顔で答えた。
「わかったよ~!
今日はハンバーグだから~!」
俺は、相槌だけ打ち
すぐに部屋に戻った。
「今日ハンバーグだってさ!まあ味は保障できないけどさ。」
裕太は少し照れ臭そうに
だけど嬉しそうな顔で
たった一言、声を発した。
「ありがとう、翔。」
この世界には
いろいろな子供がいる。
たっぷりの愛情を
両親から注がれる子供
片親の手で
一生懸命育てられる子供
祖父母に
育てられる子供もいる。
家庭の状況は、人それぞれ。
でも、1つだけ
変わらない事実がある。
どんな状況でも
俺たち子供は、前を向いて
大人の階段を上り続けなければならない。
第7話
「家庭状況」~完~
第8話
「聞こえぬふり」へ続く