Hair cuts
数回目の呼び出し音で、遊里は出た。

「はい」

固く、強張った声は、私を強く拒絶していた。その反面、いつか私から連絡が来る事を覚悟したようにも思えた。

「久しぶり」

私の声も尖っていた。心臓の音が電話越しに聞こえてしまうんじゃないかというほど強く波打っている。

「ああ…」
それっきり、会話が途切れた。

昔、付き合っていたころも、遊里と会話が続かない事がよくあった。初めの頃は、互いに何を話して言いのかわからなくてそうなることが多かった。浩人と違って、遊里はあまりお喋りが得意なタイプではなかったから。

でも、その分、細かいことにはよく気がついた。寒くない?暑くない?喉渇いていない?おなかすいていない?…。沈黙が訪れるたびに、遊里は私を気遣ってくれた。遊里は優しかった。

付き合い初めの頃の沈黙は、気まずさの中にほどよい緊張が含まれ、交際が深まっていくにつれ、沈黙の中には甘く熱っぽいじれったさが含まれたものだ。けど、今訪れた沈黙はそのどちらとも違った。二人の間には、よそよそしさと、互いを避難するような冷たい空気が漂っている。
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