Hair cuts
あの日、浩人と愛華の披露宴でさんざん酔っ払った遊里は、二次会の最中私に何度も求婚した。

(俺たちも一緒になろうよ、さくらぁ、いい加減戻ってこいよぉ)

女なら誰しも憧れる結婚。夢見るプロポーズ。でも私は、ほんの少しも嬉しいと思わなかった。遊里が酔っ払っていたからではない。もともと口下手な遊里は、ベッド以外の場所で愛情表現することはほとんどなかったし、もし、プロポーズなんてことになったらお酒の力でも借りなければできないだろうことは想像がついた。私は、プロポーズするきっかけが、浩人と愛華が結婚したからというのが気に食わなかったのだ。

「どうして、愛華たちが結婚したら私たちもしなくちゃいけないわけ?」

「だって、あの二人見たらそういう気持ちにもなるだろう」

その気持はわからなくはない。私も仕事柄ブライダル携わることがあるから、赤の他人の披露宴を見て胸を焦がすこともあった。まして、親しい友人の披露宴ともなればその思いは格別だ。けど、そんなノリでプロポーズされたくはなかった。しかも、その時私たちはまだ二十三歳で結婚するには早かった。

愛華と浩人が結婚を急いだのは、愛華の祖母が死に、お酒で体を壊した浩人のお父さんもあまり先が長くないとわかったからだ。そこには二人にしかわからない事情があっただろう。でも私と遊里には結婚を急ぐ理由はなかったし、何より、私はその頃、仕事がちょうど面白くなってきたところで、地元へ帰ってくる気などなかったのだ。
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