Hair cuts
「そうだよ。私だって忙しいのに、半年に一回は帰って来てhair cutsの集いに参加とか決めちゃうし。帰省中は毎日四人でいなくちゃいけないし。私の友達は美容学校の友達だけじゃないの。高校の友達にだって会いたいし、家族とも過ごしたい。けど、あの二人、愛華や浩人は、そういう気持全然わかってないじゃない!そりゃ、家庭環境が複雑なのはわかってる。それに、愛華には私しか友達がいないし、遊里も浩人さえいればいいっていうのも。でもね、それを私にまで求めないで!押し付けないでよ」

吐き出したと同時に、頬が熱くなった。しばらく何が起こったか理解できなかった。私は遊里に殴られていた。遊里のほうも驚いた顔をしていた。まるで時間が止まったように二人とも動けなかった。

さすがにまずいと思ったのか、俯いていた遊里が顔を上げ、何か言おうと口を開きかけた。そして顔が凍りついた。振り返ると、私の後ろに、愛華と浩人が立っていた。

今の話を聞かれただろうか。体がすっと冷たくなるのを感じた。咄嗟に上手い言い訳が思い浮かぶはずもない。むしろ、この場面で何と言い分けしても無駄だろう。卑怯かもしれないけれど、私は愛華と浩人が私の吐いた暴言に対して罵ってくれればいいと思った。そうすれば、私だって謝ることができたし、なんなら言い訳だってできたかもしれない。

いや、私はあの時、自分の無礼を詫びるべきだった。おめでたい席で主役の悪口を言ったのだから。それから、日を改めて、今後の付き合い方について話し合えばよかったのだ。でも、そうしなかった。

結局、二人とも何も言わず、二次会の会場へ戻って行った。

「もう俺たち終わりだな」

遊里にそう言われた私は、そのまま二人には会わず会場を後にした。その日以来、遊里や浩人には会っていない。愛華からは何ごともなかったかのようにたまに連絡が来たけれど、会う勇気はなかった。
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