Hair cuts
あれから、ほぼ毎日、愛華に上京するのを考え直してと言われるようになった。「お願い、あたしたち親友でしょう!」と。勿論本気でそう言うのではなく、あくまでも冗談交じりなのだけれど、私は大概にしてうっとおしいと思い始めていた。

親友なら、なぜ私の夢を応援してくれないのだろうと思うし、そんなに私と離れるのが嫌なら、自分も上京すればいいじゃないと言いたかったけれど、さすがに口に出す事は出来なかった。

愛華のおじいちゃんは春を待たずに病気で亡くなっていて、今、愛華とおばちゃんは二人暮らしなのだ。そのおばあちゃんも、おじいちゃんが亡くなってからすっかり気落ちして元気がないのだと言う。おばあちゃんは愛華にとって母親のような存在だ。一人残して行くなんてできるはずもないのだろう。何より、浩人の存在も大きい。父親と一緒に店を経営するのが夢の浩人は、地元を離れるつもりなど毛頭ないのだから。

そういった境遇の彼らを否定するつもりもないし、都会へ出たからと言って立派な美容師になれるわけでもなければ、地元にもいいサロンがたくさんあるのはわかっている。

けど、私には私の人生があるということを、愛華たちは忘れているような気がする。四人でいるのは楽しい。これがずっと続けばいいという気持ちにも嘘はない。ただ、それを実現するためには、誰かが犠牲にならなくてはいけなくて、今回の場合、それは私だ。それが、なぜわからないのだろう。

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