Hair cuts
(出て行って!)

そう叫んだのは、むしろお袋のほうだった。

(大学をやめてその人と一緒になるというなら、もう二度とこの家の敷居を跨がないでちょうだい)

言うや否や、お袋は泣き崩れた。兄貴も、俺も、親父でさえもお袋の取り乱しように言葉を失った。

(わかった)

戸惑う瞳さんの腕を引き、兄貴はこの家を出て行った。そして、ついさっき、最小限の荷物をまとめると、俺たちに別れの挨拶をして、瞳さんの元へ帰って行った。この一週間で驚くほどやつれた母と、ずいぶん気落ちした親父のことを俺に頼んで。

冗談じゃない、というのが本音だった。親父も母も、兄貴に家をついでもらいたかったのはわかっていることじゃないか。

兄貴は両親にとって自慢の息子だった。親父はもちろんのこと、専業主婦だった母は、出来のいい兄貴にべったりで、塾の送迎のために免許をとり、部活の遠征ではどこまでも追いかけた。母は誰よりも兄貴を愛していた。そのこともわかっているはずなのに…。
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