Hair cuts
一緒に東京のサロンの面接を受けようと約束したさくらに、俺は地元に残る旨を伝えた。

ぶおおんと、電車が通って学校全体ががたがた揺れた。

「そっか」

さくらは、意外なほどあっさり承諾してくれた。なんだか寂しかった。ちょっとだけだけど、「遊里が行かないなら、私も考え直そうかな」と言ってくれるのを期待していた。

「でも、いずれ、帰ってくるんだろう?修行が終われば」

そう訊ねた俺に、さくらは、迷うことなく頷いたから、俺はとりあえずほっとした。俺たちは、離れていてもうまくやっていける。そう思った。

「まずは、国家試験に合格しなくちゃ」

「そうだよな。それからだな」

国家試験まであと半年と迫っている。専門学生二年目の夏は、一年目の夏よりもずっと忙しく、就職活動やインターンや試験勉強に追われながらも、溢れんばかりの若さで日々乗り切っていた。

愛華や、浩人や、さくらや、勿論俺だって、抱えていた心の問題はそれぞれあったけれど、慌しく駆け抜ける今を生きるのに精一杯で、泣いたり喚いたりしている時間なんかなくて、むしろそんな暇があるぐらいなら四人集まっているときだけでも笑い合おうという思いがみんなの内側から溢れて、だから、毎日が幸福だったのだろう。

俺たちは、深いところで繋がろうともがきながら、そのくせ、自分たちの弱さを見せる事を恥じていた。ただ笑い合って、楽しい時間を共有することに心を砕いた。そうすることが、仲間へ対する思いやりだと思っていたのかもしれない。
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