Hair cuts
「悪かった、悪かったよぉ」

ようやく親父が声をあげた。しかも、息子の俺に、必死に許しを請う。また怒りが増す。

そんな風に俺に許しを請うな。かしずくな。何クソって、立ち向かって来ていよ。ふざけんなって、俺の事殴り倒せ。そのざまはなんだよ。

どれほどの時間そうしていたのだろう。暴れ疲れた俺は、憑き物が落ちたみたいにその場へへたりこんだ。壊れた梁からぱたぱらと落ちた木屑が、俺の荒々しい呼吸に乗って舞う。

「なんだってこんなことしたんだよ」

まだ弾む息で問いかけた俺に、

「何もかも、いやになっちまってよぉ」

相変わらず亀のような格好のまま親父が答える。

冗談じゃない。何もかも嫌になるのはこっちだ。

完全に血が上っていた頭の中に少し残っていた冷静な部分で、殴られる方は勿論痛いけど、殴る方も案外痛いし疲れるもんなんだって、そんな風に思った。

「明後日で5年目だけど…」

俺が言うと、親父がびくりと肩を震わせた。明後日は、両親の離婚が成立して5年目のXデーだ。

「今日の仕返しはほどほどに頼むよ」

親父の体が小刻みに震え始めた。俺は最初親父が泣いているのだと思ったけれど、そのうち、へへへと、あのふざけた笑い声が聞こえてきた。

その年を境に、Xデーに親父が俺に手を上げることはなくなった。

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