Hair cuts
「麻酔はいりますよ」

お面のように表情の固い看護師が、あたしの腕に針を刺した。あたしは透明な液体が自分の体の中に入っていくのをじと見つめた。

冷たい。

看護師さんと目が合ったの微笑みかけたが、目をそらされてしまった。この前の病院は看護師さんが優しくて先生が無表情だったのに対して、今度の病院は看護師さんが無表情で先生のほうがにこにこしている。ヤギのような髭を生やしたおじいちゃんだ。

先生はこの優しい笑顔で何人の赤ん坊を殺したのだろう?なんて考えるのは、やっぱり、自分が子供を殺したと思いたくないからだ。

卑怯なあたし。でも、あたしは浩人を守るためなら卑怯者でも愚か者にでもなれる。

(愛華との子供が欲しい。子供ができたら結婚しよう)

浩人の言葉をあたしは素直に嬉しく思う。きっとあたしたちは離れない。
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