Hair cuts
「桜庭さん、私の後に続いて数を数えてください。いーち」

無表情な顔には似つかわしくない、看護師さんの柔らかい声で、なぜかずっと会っていない母のことを思い出した。

母は、父の心を繋ぎ止めておくためにあたしを産んだ。

(わたしのことはどうでもいいの!でも、愛華はあなたの子供なのよ!)

喧嘩の最中、母は切り札のようにあたしの名前を出す。

愛華のために、愛華のことを、愛華がかわいそう…。

あたしは、母のようにはならない。男の人を繋ぎ止める道具に自分の子供を利用したりはしない。

愛華のせいで、愛華がいるから、愛華のおかげで、ママは何もできない…。

なら、母は今幸せなのだろうか?あたしと離れて、ママは…。
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