Hair cuts

遊里の証言

結婚式の後も俺たちは何ごともなかったかのように過ごしていた。ただ、そこにさくらがいなくなっただけだ。

でも、そのことは誰も口にしなかった。つまり、さくらと俺の事を、二人がはやし立てたり追求したりはしなかったということだ。

俺に気を使っていたというのも勿論あるだろう。けど、それ以上に寂しかったんだ。同じラインに立っていたさくらが、今では手の届かない人になってしまったみたいで。

プライドも傷ついた。正直、置き去りにされた気分だったのは、俺だけじゃなく二人も一緒だったと思う。その頃さくらはすでにモデルや女優のヘアメイクのアシスタントも手掛けていて、たまに雑誌や映画のエンドロールに名前が載ることもあっただろう。同じ学校で、同じ先生に学び、同じく試験に合格した俺たちなのに、さくらだけが特別な人になってしまったという想いは、みんなの心の絆を変に強くした。そう、嫉妬だよ。

だったら、あんたたちも自分の力を試したらよかったのに、と、さくらなら言うんだろうな。でも、俺たちにそこまでの根性とか野心はなかったんだ。そのくせ、つまらないプライドだけはあった。
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