Hair cuts
結婚から二年目で浩人が独立した。親父の店を継いだんだ。浩人の親父さんはいよいよ病気で働けなくなっていたし、人とうまくやれない愛華も外に働きに出ても続かない。でも、浩人のアシスタントくらいならやれる。家族で店を切り盛りしていこうって決めたんだろう。

自分がオーナーになった時、浩人は店の名前を「hair cuts」に変えた。俺達の青春のシンボル。お前はとうとう一度も訪れなかったな。いい店だったよ。改装費用は親父さんが少し手伝ってくれて、あとは浩人がローンを組んだ。さくらが開店お祝いを贈ってくれたこと、浩人、ものすごく喜んでた。ありがとう。

それから間もなくして浩人の親父さんが亡くなったんだ。幸せだったと思うよ。浩人は店を継いでくれたし、愛華も側にいるし、安心して逝けたんじゃないかな。まあ、孫の顔が見られないのが心残りといえば心残りだったかもしれないけど。

親父さんが死んでから、浩人、理容師免許を取るためにまた学校へ通い始めたんだ。そう。俺たちの母校だ。線路沿いにあって。ピンク色で、電車が通るたびに授業が中断される、あの美容学校。といっても通信科生としてだったんだけど、おかげで三年も通わなくちゃいけない。でも、浩人は絶対にあきらめないって言ってた。

なぜかって?来るんだよ。親父さんの客がさ。浩人も理容師だと思って、昔からの馴染みの客が来るんだ。浩人は今風のしゃれたカットは出来ても、顔そりなんかはできない。それで理容師免許も取ろうと思ったわけだ。親父さんの客を引き受けるつもりで。
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