Hair cuts
「これ、今なら渡してもいいかなって思って」

タオルで丁寧に手を拭くと、大場先生が二枚の写真を差し出した。

一枚は、遊里が入選した大会のときに写したもの。遊里が真ん中で入賞した作品を抱き、その周りを私と愛華と浩人が囲んでいる。みんな弾けるような笑顔をしている。

そして、もう一枚は愛華と浩人の披露宴で写したもの。高砂にドレス姿の愛華とタキシード姿の浩人がいて、その後ろに私と遊里が立っている。私以外の三人は笑顔で、私だけがこわばった顔でレンズを見つめている。

「アルバムの整理をしたら出てきたの。私が持っているより、さくらっち…。いえ、赤坂先生が持ってるほうがいいような気がして」

黙って写真を見つめていると、大場先生は、私の肩をぽんと叩き、実習室を出て行った。

あれから、遊里には一度も会っていない。連絡もしていないし、街ですれ違ってもいない。

けど、無意識に、私は街のサロンを覗いてしまう。もしかしたら、遊里が働いているんじゃないかって、そんな期待をして。
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