Hair cuts
片づけを終えた私は、鏡の前に立ち、手をかざした。

かつて、大場先生が私たち生徒にやらせた訓練。空っぽの手にシザーズがあるつもりで、動かしてみる。腕は固定して、動かすのは母子孔だけ。見えない動歯が動き、静歯と重なって、しゃきしゃきと音が聞こえてくる。

「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅ…」

声に出すと、たちまち、懐かしさが込み上げて、視界が滲んだ。

おしゃべりで、お調子者の浩人。

控えめで優しい遊里。

寂しがりやで依存心の強い愛華。

そして、わたし。

出会えて、よかった。私は確かに幸せだった。

思わず、両手で顔を覆った。

「みんなに、会いたい…」

溢れた様々な感情が交じり合って行き着いた一つの結論は、あまりにも単純なものだった。

会いたい。でも、もう会えない。

当たり前にあるときには気づけず、時にはうっとおしくさえ感じた仲間の存在。失って何年もしてから、その尊さに気づくなんて…。
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