Hair cuts
しばらく声を殺して泣いていると、ふわりっと誰かに頭を撫でられた。

顔を上げると、目の前の鏡に写ったのは、懐かしい顔。遊里が立っている。

「ゆ、」
振り向こうとすると、遊里が手で制した。腕にはあの時受けたと思われず傷跡がくっきりと刻まれている。

遊里は無言で、指を動かした。さっき私がやっていたハサミを動かす訓練。

すぐ横に遊里はいるのに、わたしはいるのに、わたしたちは鏡越しに見つめあった。

言葉はない。

私も手をかざし、遊里と一緒に見えないハサミを動かした。

いち、に、さん、し…。

聞こえるはずのないシザーズの開閉する音が、耳の奥に広がる。

なんて懐かしいのだろう。なんて儚いのだろう。

やがてその音は一つ、また一つ増え、とうとう四つのハサミの音がし、やがて一つ重なり、リズミカルで小気味良い旋律を奏でる。その音は、ぶぉおんと列車が通り過ぎても、いつまでも耳に残ったまま消えることがなかった。
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