Hair cuts

さくら十八歳・春

その頃、私は北東北のとある町で暮らしていた。田んぼや果汁園がたくさんあり、水がきれいで農業のさかんな町という以外の長所がない、全国津々浦々、どこにでもあるような田舎町だ。

私立高校の英文科を卒業した私は、なぜか大学へは進学せず、地元の美容学校へ進んだ。もともと熱心に英語を勉強していたわけではなかったし、母が美容師だった影響もある。

でも、だからと言って、母の店を継ごうという意思はなかった。母の店は家と同じ敷地に建てられている田舎にありがちな小さな美容室で、私がなりたかったのは、東京で働くカリスマ美容師だった。それも、芸能人やモデルが来店するようなとびきり上等のお店で働きたかった。

けれど、それすら、ただのこじつけで言い訳だったのかもしれないと、今となっては思う。

私は、ただ単純に勉強が嫌いだった。受験なんて真っ平だった。都会への憧れはあったけれど、親元へ残っていた方が何かと楽という思いも少なからずあった。

その頃の私はとてもめんどくさがりやで、そのくせ少し見栄っ張りだった。何より、遠い未来より明日どう楽しく生きるかの方がずっと重要だった。
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