Hair cuts
第一章

さくら三十歳・二つ目の恋の終わり

自分の家に帰ってくるのは一ヶ月ぶりだった。家と言っても、狭いワンルームマンションなのだけれど、玄関を開けた瞬間、私は、久しぶりにかいだ自宅の匂いに、ほとんど涙ぐみそうになった。
 
 部屋は一ヶ月前、慌しく出て行った時のままだった。篭って淀んだ空気。めくれたまんの布団。カーテンの隙間からこぼれる太陽の光の中で舞う埃。灰皿のタバコ。シンクの中に洗わずにおいたコーヒーカップが二つ残っているのを見つけて、疲れがさらに増す。

「歳だなぁ」

思わず一人ごちた。「まったくだね」と皮肉の一つも言ってくれる恋人は、でも、もういないけれど。

ジルがこの部屋を出て行ってから3ヶ月が過ぎた。ジルというのは私のかつての恋人で、私たちは五年間ともに暮らした。

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