Hair cuts
学校には駐車場がないから、俺たちは近くのスーパーに車を止めている。月ぎめはバカ高いし。

俺はまだ自分専用の車を持っていない。「車っていうものはな、ものすごく金がかかるもんなんだ。学生の身分で車を乗り回すなんてけしからん。自分で稼げるようになったら買うんだな」そう言って俺の親父は車を買ってくれなかった。国立大学の教育学部へ通う二つ上の兄には入学と同時に買ってやったのに。

ちょくしょう。

だから俺は車が必要な時、母親のマーチを借りる。優しい兄貴はいつでも車を貸してやると言ってくれるけど、それはなんだか嫌だった。

俺の親父は教師だ。公立高校で社会を教えている。母親は主婦。結婚する前は中学校で家庭科の先生をしていたらしいが、もともと大人しく自己主張の弱い人だったから、生徒に舐められてノイローゼ気味になってやめたらしい。俺も母親みたいな先生がいたら多分舐めてかかっただろう。

そんな母は優しいが、もちろん親父の言いなりで、何一つ自分で決めることが出来ない。唯一母親が決めたことといえば息子たちの名前だ。兄貴が伊織(いおり)で俺が遊里(ゆうり)。母はどうやら女の子が欲しかったようだ。

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