Hair cuts
浩人はカット実習が本当に好きだ。真新しいはさみで、練習用のウィッグをさくさく切っていくのが気持いいんだと。わかるような気がする。確かに楽しい。

けど、浩人は調子に乗ってウィッグを切り過ぎて、いつも久美ちゃんに叱られている。

用意していたウィッグを全部だめにしてしまい、それで、やつは今、一人、はさみを動かす練習をさせられている。

カット用シザーは工作用のハサミと違って、親指しか動かさない。シザーを目の前にかざし、腕を固定した状態で、親指だけで動歯を動かす練習を久美ちゃんはさせる。

「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう」

初めはゆっくり、だんだん早く。でも、動かすのは母子孔にかかった親指だけ。ずっと繰り返していると腕も親指も痛くなって、感覚がわからなくなってくる。意外に難しいんだな、これが。それでも、浩人は楽しそうにシザーを動かす。カット実習というよりハサミが好きみたいだ。

「浩人って、ハサミ持つと人が変わるよね。他の授業もその半分でいいから力注いでくれればいいんだけどね」

久美ちゃんの嫌味も浩人には通じないようで、

「オーイエッ!ビコーズ アイ アム ヘアカッツ」

と言い、ハサミをしゃきしゃき鳴らした。
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