Hair cuts
けど、たった一度だけ、マジで切れたことがある。あれは高校二年生の時だ。こともあろうか浩人は俺が当時付き合っていた彼女と寝た。これまでも気になる女の子やモトカノと関係を持たれたことはあったけど、ジャスト付き合っている子を寝取られたのは初めてだった。

「どうゆうことだよ」

詰め寄った俺に、

「仕方ねぇだろう、そういう雰囲気になっちゃったんだから。それにちょっといいなと思ってたのは事実だし」

浩人は開き直った。

「なんだそりゃ?そういう雰囲気に持ってったのは誰だよ?」

「だから悪かったって。そう思ってきちんと話したんだろう」

「話せばすむ問題かよ」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ」

「一発殴らせろ」

さすがにその時ばかりは許せなかった。頭に血が上り胸ぐらをつかんだ俺に、

「…はぁ?まじで言ってるの?」

浩人は怯んだ。これまでの付き合いで、俺たちが殴り合いの喧嘩をした事は一度もなかったのだ。

「わかったよ」

にらみ合ったあと浩人は諦めたように体の力を抜いて、殴ってすむなら殴れよと、休めのポーズをとった。

ふざけてんのか、こいつ。これまでの恨みも全部こめてやってやる。

俺は拳を握った。殴るのは俺のほうなのに心臓が破れそうなくらいばくばくしていた。

俺の覚悟が決まり、浩人がぎゅっと目を閉じ、歯を食いしばったその時、

「竹中浩人、おめぇ、ちょっとこいや」

野太い声が後ろから聞こえた。びっくりして振り返ると、三年生のめちゃくちゃ恐いと評判の先輩が鬼の形相で立っていた。

「やべぇ」

浩人は小さく言うと、俺の腕を振り払い、一気に駆け出した。呆気にとられる俺。無駄に踊る心臓。一体、何が起こったんだ?

「てめぇ、まてこら」

先輩が浩人を追いかけてるのを、俺はぽかんと見ていた。わけがわからなかった。

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