Hair cuts
そんな失礼極まりないことを考えていると、こんこんと車の窓を叩かれぎょっとした。

十日ぶりに見るさくらの姿。なんか別人みてぇ。いつもの動き易いジーンズとTシャツではなくエキゾチックな柄のロング丈のワンピースを着ている。茶色かった髪の毛も真っ黒に染め直していて、ストレートパーマをあてたのか真っ直ぐだ。ちょっと国籍不明な感じがするけど、こういうのもありかもしれないと思った。

「久しぶりだな」

「本当に」

二度目のマーチにさくらはするりと乗り込んできた。クーラーがんがん。ホルダーには冷えたコーラ。BGMはEXILEのバラード。完璧じゃん。

「なんか、雰囲気が違うからびっくりした。髪の毛も黒くなってるし」

「インターン前に染めたの。一応ね」

さくらが髪の毛を指にくるくる絡ませにっこりした。

「いいんじゃない?」

ついぶっきら棒になってしまう。似合ってるよ、可愛いじゃんとハイテンションに言えない自分がマジむかつく。

「ありがとう」

「どういたしまして」

発射オーライ。はい、沈黙。

ああ、なんで俺は気の効いた会話ができないんだろう。窓の外を眺めるさくらを横目に、俺は必死に話題を探した。インターンの話とか、試験の出来栄えとか。続かない会話のキャッチボール。はい終了。

「カーペンターズのほうがよかったな」

沈黙を破るようにさくらがぽつりと言った。

俺は、やっぱりまださくらのことがよくわからない。
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