Hair cuts
「ごめんな」

ようやく親父から解放されると。とりあえず俺は謝った。

「どうして?」

「いや、親父しつこくて」

全然。良いお父さんじゃない」

「どこがだよ!」

本音かどうか知らないがとりあえず俺はほっとした。ああ、よかった。嫌われていないって。

「まったく、ついてないよ。親父、今日はでかけているはずだったのに…」

親父の愚痴をきっかけに、話はどんどん膨らんで、会話は思いのほか弾んだ。さくらも自分のことをよく話してくれた。家族のこと、高校の友達のこと、インターン先での愚痴、先生の悪口、浩人や愛華のこと。俺たちは初めて当たり障りの無い会話以外の言葉を交わした。こんなに話すことがあったんだっていうくらい会話は尽きなかった。

ほとんど手をつけていないアイスコーヒーの氷がすっかり解けてグラデーションがかっている。少づつ二人の距離が縮まっていく。

気がつけば外はオレンジ色に染まっていた。
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