Hair cuts
「彼女のことばっかり見てないでさっさと巻きなさい」

ぼんやりしていたら、いきなり目の前に現われた久美ちゃん先生のドアップ。

「ちょ、心臓止まるかと思ったんですけど」

「失礼なやつだな。わたしゃ幽霊か」

「いやぁ、幽霊のほうがまだマシ。って…」

言い終わらないうちにジャンボコームで脳天を殴られた。クラス中の視線が俺と久美ちゃん先生に集まって、笑いが起こる。

俺と久美ちゃん先生の掛け合いは、ちょっとした名物だ。実習中思うように手が動かなくていたいらしたとき、ばかみたいに長げぇ薬品の名前を暗記させられて頭がパンクしそうなとき、ふっとクラスに立ち込めるプリーズ・ブレイクタイム。そういう空気を俺は敏感に感じて仕掛け人になる。久美ちゃん先生はそれに上手く便乗してくれる唯一の先生だ。

久美ちゃん先生は空気を読むのがうまい。お笑い芸人目指せばきっといい線いっただろうに。
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