Hair cuts
視線を感じて顔を上げると、愛華がこっちを見ていた。俺が投げキッスを飛ばすと、唇を噛んで俯いた。耳が真っ赤に染まってる。

純粋だよなと思う。束縛を愛情だと信じてる辺りも、俺が浮気してるのに気づかない辺りも。

可愛そうだとおもわないのかと遊里は言う。はぁ?可愛そうなもんか。あいつは男を狂わせる女だ。だからしっかり見張っていないといけないし、あいつを傷つけないためにも俺は時折他の女で息抜きをしなくちゃいけない。けど、遊里にはそうは言わない。言っても理解してもらえないのはわかっているから。

とはいえ、愛華は華やかな美人じゃない。むしろ、いつまでたっても垢抜けない。その上体は痩せすぎてがりがりで胸もぺたんこ。けど、透けるように白い肌とあの陰鬱な雰囲気は男の欲望を掻き立てる。こいつをとことん苛め抜いて破滅させたいといと思う気持と、世の中の汚いこと全てから引き離し自分だけの物にして隔離したいような気持の両方にさせられる。そして、そういう愛華の魅力には、俺のような極度の寂しがり屋でハングリーな男にしか気づけないのだ。だから俺はいつも愛華の行動を把握していなきゃ気がすまない。愛華の交友関係も行動範囲も寝る時間も携帯電話の中身も俺はチェックする。

かつて、親父がお袋にそうしたように。
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