Hair cuts
気がつけばさくらの機嫌が治っている。遊里と外国の映画の話をして盛り上がっていて、なぜ愛華がつまらなそうにストローを噛んでいる。遊里は最近さくらの影響で洋画を見るようになった。以前は、字幕を読むのがめんどくさいという理由で邦画しか見なかったのに。

「いつの間に映画行ったの?いいなぁ。二人ばっかりずるい!今度は四人で行こうよ。ね、浩人」

愛華が俺の腕を取り、甘える。さくらの顔が少しひきつったのを俺は見逃さなかった。でも俺は、

「ああ、今度は四人で」

だが、俺はそう言ってやる。俺と愛華、さくらと遊里。その間に見えない膜のような物が出来上がったのはいつからなのか。その見えない境界線を俺はひきちぎってやる。いくら一緒にいても仲間を語っていても、俺たちカップルの間は、はっきりとした何かで区切られている。あいつらは、俺たちより育ちがいい。さくらと遊里の仲が深まるほどにその境界線が日に日にはっきりとしてくるのがたまらない。さだから俺はその線を消す。俺と愛華が置いてけぼりにならないように。

「今度の日曜日。いいよね?」

愛華に肩を揺すられて俺は、はっとした。

「なんだって?」

「だから、カラオケ。その日さくらと遊里がオフなんだって。ダブルデート」

さくらが小さくため息をつき、遊里が視線でさくらを慰めている。

「ああ。もちろん。予約は任せろ。ヘアカッツでしとくから」

「わぁい」

愛華がころころ笑う。さくらが「まじやめて」と頬を膨らませる。遊里が苦笑いする。

なぁ、俺たちは仲間だろ?ダチだろう?

濃いオレンジ色の夕日が山の向こうに沈んでいく。山が燃えている。オレンジも悪くないな、と俺は髪の毛を撫でてみる。
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