Hair cuts

愛華を家まで送り届けると、俺は重い気持で玄関のドアを開けた。今日泊まってよと甘えた愛華を宥め、ならあたしが浩人の家へ行くときかないのを叱りつけ、ようやく帰宅したのは夜十時過ぎ。でも、今日だけは何があっても俺は家へいなくてはならない。

「ただいま」

帰宅すると、親父はすでに出来上がっていて、顔を赤くしていた。

「あんま飲みすぎんなや」

俺はテーブルに散らかったビールや発泡酒の空き缶をゴミ袋に入れた。背後に親父の立つ気配に身の毛がよだつ。ゆっくりと黒い影が揺れている。

「飲まなきゃ、やってられないだろ」

ろれつの廻らない口で、おやじが絡む。きた、と俺は身構え、しかし、とぼけたような口調で振り向いた。

「なんだ、頭のおかしな客でも来た？」

俺より頭一つ分は小さく、横にがっちりとした親父が俺を見上げている。親父もお袋も小さいのに俺はでかい。誰に似たんだろう？隔世遺伝だろうか？そんなことを考えながら気を紛らわす。親父の吐く息は酒臭く、目は血走っている。足が小刻みに震え立っているのがやっとだった。