Hair cuts
「四年…」
親父が呟いた。
「あいつと他人になってから今日で四年だ」
あいつ、というのはお袋のことで、今日で離婚が成立して四年目。親父はそう言いたいのだ。
「俺は同意してねぇ。でも、なんだ。夫婦が七年別々に暮らしてりゃ、互いの意思は関係なく離婚できるんだ。なんだよ。そのクソみてぇな法律はよぉ」
ひっく。親父はしゃっくりをし、けっと唾を吐き捨てた。唾は俺の作業服のシャツを濡らす。
「もう、いいじゃねぇか」
お袋が出て行って十一年。もう忘れろよと言いたいのを俺はぐっと飲み込んだ。言っても無駄だ。親父が死ぬまでお袋のことを忘れない。
「なぁにがいいんだよ」
親父が俺の肩をどんと押した。親父の分厚い手の平に押され、俺はよろけた。
「あいつはな、俺の客と逃げたんだぞ。それも、十歳も年上の、鶏がらみてぇに痩せたハゲ親父と。俺らはな、その鶏がら以下なんだぞ。え?」
ああ、そうさ。俺たちはあの鶏がら以下だよ。でもそうさせたのは親父だろう。お袋をまるで犬みたいに家の中に繋いでおいて。だからお袋は逃げたんだ。繋がれっぱなしの犬よりははるかにマシな鵜飼のもとへさ。
親父が呟いた。
「あいつと他人になってから今日で四年だ」
あいつ、というのはお袋のことで、今日で離婚が成立して四年目。親父はそう言いたいのだ。
「俺は同意してねぇ。でも、なんだ。夫婦が七年別々に暮らしてりゃ、互いの意思は関係なく離婚できるんだ。なんだよ。そのクソみてぇな法律はよぉ」
ひっく。親父はしゃっくりをし、けっと唾を吐き捨てた。唾は俺の作業服のシャツを濡らす。
「もう、いいじゃねぇか」
お袋が出て行って十一年。もう忘れろよと言いたいのを俺はぐっと飲み込んだ。言っても無駄だ。親父が死ぬまでお袋のことを忘れない。
「なぁにがいいんだよ」
親父が俺の肩をどんと押した。親父の分厚い手の平に押され、俺はよろけた。
「あいつはな、俺の客と逃げたんだぞ。それも、十歳も年上の、鶏がらみてぇに痩せたハゲ親父と。俺らはな、その鶏がら以下なんだぞ。え?」
ああ、そうさ。俺たちはあの鶏がら以下だよ。でもそうさせたのは親父だろう。お袋をまるで犬みたいに家の中に繋いでおいて。だからお袋は逃げたんだ。繋がれっぱなしの犬よりははるかにマシな鵜飼のもとへさ。