Hair cuts
記憶はどんどん遡って、高校、中学、小学校までやってきて、最後はお袋の顔が曖昧に浮かんだ。

頼りなくてほの白い、陰鬱そうな影が俺にそっと寄り添ってくるから、俺はそれを払いのけようと体をねじった。

俺の振り上げた手が親父の足にからまって、親父がしりもちをつく。どすんと、仰向けに倒れた親父は歯を食いしばって泣いていた。

「ちくっしょおう」

仰向けになったまま男泣きする親父を見つめた。赤黒い頬を伝う濁った涙。靴下が破れて親指が飛び出している。

こんな姿見たくなかった。こんな情けない姿見るくらいなら、身勝手で暴君でおっかない親父のほうがよかったよ。柔道の名手で、鬼瓦みたいな顔してるくせに、たった一人の女のこが忘れられず、酒に溺れてはおいおい泣く親父の姿を目の当たりにすると、俺は袋を恨まずにはいられない。

「俺たちはな、あの女に捨てられたんだ」

親父の恨み節は止まらない。

そうだ。俺たちは捨てられたんだ。
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