Hair cuts
(お父さんがいるだけいいじゃない。あたしには、どっちもいないから)

付き合い初めの頃、俺が親父と二人暮らしなことを告げると、愛華はそう言った。愛華の両親は離婚していて、それぞれ新しい家庭を築いているらしい。愛華は母方の祖父母と暮らしていた。

(お前、辛かったろう)

そう言った俺は、どこか誇らしかった。こいつは、母親に捨てられた俺よりもずっと可愛そうなんだという優越感。

(あたしは、あたしを一番に考えてくれる人が欲しいの。他の誰よりもあたしを大切に思ってくれる人が)

愛華のお袋は嫉妬深く、愛華の親父はそれに疲れて出て行った。まるで俺の親父の女版。でも、少し違うのは、愛華のお袋は男なら誰でもよかったというところだ。愛華のお袋は男の愛情無しでは生きられない女だった。それで、すぐに次ぎの相手を見つけると愛華を置いて出て行った。もう、前の男との間に出来た愛の結晶には興味などなかった。

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